ぬこさま

パールの首輪がおしゃれ

うちの猫はミルクという名前でした。メスで、1982年の五月にうちにやってきました。当時生後二カ月くらい。

昨日の日記に上げた写真は飼い始めて一年たったくらいでしょうか。ぴちぴちのぱつんぱつんの娘ざかりの頃。
今日の写真はもっと小さかった頃だと思います。少し顔が幼い。鼻、きれいなピンクだったんですよ昔は。肉球もぷりぷりー。

当時、かわいいかわいいと馬鹿親ぶりを発揮し、たくさん写しはしたものの、何しろフィルムを現像するまで出来が読めない時代。結果、どれもこれも接写しすぎてボケボケの写真ばかり。とほほです。比較的はっきり写っているものを選んだんですが、実物はこの倍ぐらい良かったと思って下さい。いや本当に。


うちではとにかく弟が一番夢中で可愛がってました(可愛がってただけー。世話してたのは父と母)。弟、失踪していた二年間も、「ミルクのことだけが気掛かりで気掛かりで仕方なかった」そうな。やれやれ。
弟が帰ってきた時、二年ぶりの再会にもかかわらず、ミルクの態度は実にすげないものでした。


「あら、お久しぶりね?」
―別に貴方を恋しいと思った夜はなかったけど。まあ、忘れた夜もなかったわね。


みたいな。
流し目とかするし。けだるそうな表情が得意だし。おまいはどこのマダムかと。
お腹が空いた時以外、自分からすりよって来たりとか絶対しない猫でした。家族全員、膝に乗られたことがないというほど。いやん。


先日母が、弟が買った本が実に面白いからあんたも読みなさい、とすすめてくれた本がありました。

http://d.hatena.ne.jp/mona05/20050526

母さん、これ、私とっくの昔に読みました。こいつは殿方には読ませちゃなんね、と思って隠していたのに、見つけちゃったか弟よ。


これを読んだ弟は、
「猫って女だなあ」
とぽつり。
本当は、
「女って、猫だなあ」
というのが、たぶん一般的な、あるべき感想なはずなんですけども。
うちのミルクが実際メスだったからかもしれませんが、弟の感想はミルクを知る私にすればすごく的を射ていて、大笑いでした。


ミルクは最後の日、段ボール箱に入って弟のベッドの傍に寝ていました。前の晩ほとんど動かなかったのに、明け方やけにガリガリ箱を引っ掻く音がする。弟が目を覚まして声をかけると、前足を箱の縁に掛けたので、どうしたどうしたと手を差し出したら、ミルクは両の前足の肉球でその手をはさむようにして(白刃取りみたいな感じ?)、にぎにぎしてきたそうです。にぎにぎ、にゃー、にぎにぎ。
弟はその様子に、「ああこれならまだ大丈夫だ」と、ほっとさせられたそうなんですが。


その後ミルクは、弟が朝ほんの二時間ばかり家を空けた間に、逝ってしまいました。


「あれは一生忘れらんねえー」
と弟は泣いてましたが、私は一緒に泣きつつ、ミルクは最後まで何というか、男心をがっつり掴んで離さない術に長けたメスというか、尻尾の先までびっしり女な猫だったわねと、感じ入ってしまいましたよ。
うちの弟は失踪とかワケわからん事をしちゃうわりに、老若男女全般に受けがよい、実にそつのないモテ男なんですが。ミルクにだけは23年間、終始振りまわされっぱなしでした。


ミルクの残してくれた財産として、その小悪魔的テクニックを同じ女として実生活に活かしたいものですが、
弟に言わせると、
「だってミルクは猫界の八千草薫かというくらいの超美人だったからな」。
だからどう冷たくされても追いかけずにいられなかったのだ、と。


隊長!それはテクニックだけじゃ越えられない、チョモランマよりも高く厚い壁であります!(倒)