終電車エレジー

※現場にいたM本さんの証言をもとに、登場人物の言葉づかいにのみ多少の脚色をほどこしつつ、再現してあります。尚、登場する人物は全て仮名です。



とある寒い夜、まあるい緑の山○線、終電車は池袋どまり。


マツ(仮名)「池袋までしか行かねえべ」
隆三(仮名)「どうするよ」
マツ「んんんー…、なありゅーぞー、ナラ(仮名)の奴さあ、いくら出すっつったら池袋、来てくれっかな?」
隆三「えー、そうなあ…。…四千とか?」
マツ「ひとり二千か。ん、いいとこじゃね?」


どうやら池袋から先の帰宅(?)手段として、車を持っている友達を頼ろうとしているもよう。そして四千円というのは、タクシーを使うよりは安く上がるだろうというあたりも含んでの、目安の金額と思われる。
携帯を取り出し、ナラくんに電話するマツくん。プルルルル。


マツ「おうナラ、俺俺、あのさ俺今りゅーぞーといんだけどさ、山手終電でさあ、そう終電池袋までしかいかねんだよ。でさ、おまえ池袋までさ、いくら出すっつったら俺ら迎えに来てくれる?」


とりあえず、ナラくんの希望額を先に訊いてみるマツくん。


マツ「…え?千円?せんえん?マジで?マジで二人で千円でいいの?え。え?あ、そう、わかった。サンキュー、あーはいはい、んじゃ池袋な。よろしく」


礼を言って電話を切るマツくん。隣で聞き耳を立てていた隆三くんも驚いたようす。


隆三「なに、千円でいいってナラ?マジで?」
マツ「うん、いいって。駅前来るってさ」
隆三「たすかるなー」
マツ「うん、だけど、ナラあいつ今」
隆三「なに」
マツ「横浜にいるらしい」



目撃談は以上でございます。



横浜から池袋に来てもらうまで果たしてどれくらい寒空の下で待ってなきゃなんないのかとか、もしかしたら始発待つのと結果ろくな差出ないんじゃないのかとか、それなら四千円以上出してもタクシー使うなり何なりした方がはるかにいいんじゃないのかとか、
もー、マツくんうっかりさん!安さに目が眩んで! と、突っ込みどころは多々ある気がしますが、
(それとも横浜⇔池袋って、真夜中なら高速道路とか利用すれば小一時間程度の距離なの??)


それにしたって、千円という破格の値段で横浜から池袋まで車とばして迎えに来てくれちゃう、ナラくん(仮名)て何者だ。



最初話を聞いた時、女の子二人が「いくら出すって言ったら〜」の会話をしていたのかと思って、うーむなんか嘆かわしいような気もするが、まあありがちな話ではあるよな、あるある、と思っていたんですけど。


野郎ふたりのためかよナラくん(しつこいようだが仮名)。


M本さんも私も、ナラくんが気になって気になってしかたありません。底無しにいい子なのか、それとも底無しに アホウ 天然なのか。
たぶんどっちもで、そして、底無しに男前な青年なんだろうと思います。